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不妊治療を受ける女性へのサポート~辛さを知る~
今回は、不妊治療と仕事の両立を経験した、営業職の女性のストーリーから知る、不妊治療の辛さと展望について、記載いたします。

目次
Ⅰ.不妊治療を打ち明けられない女性のストーリー
営業職を担当する女性の絵美は、仕事をしながら体外受精の治療を受けていました。
同僚たちとは仲が良く、仕事の合間に食事に出かけたり、休憩時間に話しをすることも多かった絵美ですが、治療については周囲に言えずにいました。
「今日は治療のために午前中休むから、午後からまた戻ってくるね」
と誰かに伝えると、同僚たちはその日の午前中に何をしていたのか気になると思うこともあったでしょう。
しかし、絵美はどうしても周囲に治療に取り組んでいることを打ち明けることができず、悩みを一人で抱え込む日々が続きました。
時には何も知らない上司から

「治療って何の治療?本当に治療しているの?」
「怠け癖がつくから、あまり休まない方がいいんじゃない?」などと心ない言葉をかけられることもありました。
やがて、治療に専念するために休職することになりました。
同僚たちは絵美の突然の休職に驚き、心配の声を寄せましたが、その背後にある理由は知らされませんでした。
「絵美、大丈夫?休職した後の治療は順調に進んでいる?」
と同僚からの連絡に、絵美は「はい、順調に進んでいます。ありがとうございます。」

と答えますが、実は日々の治療によって体調を崩したり、精神的にも辛い状況に陥っていました。
それでも、絵美は周囲に心配をかけたくないという思いがあったため、何も言えずにいました。
ある日、絵美のもとに同僚から連絡が入り
「私たちね、絵美とまた一緒に仕事がしたいねってよく話しているの。治療はいつ終わりそう?私たちに何かできることはない?」と言いました
。
絵美はその言葉に胸が熱くなり黙っていることが耐えられなくなりました。
「実は言っていなかったけれど、私、不妊治療をしているの。それで休職ているの」と、絵美はふと口を開き、同僚たちに打ち明けました。
同僚達は、驚きを隠せませんでしたが、ずっと隠し続けてきた絵美の辛さを理解しました。
「協力できるところは、みんなで協力できるよう上司にも掛け合ってみるから、もう一度復帰してみない?」と絵美に提案しました。
絵美はその言葉を信じ、仕事に復帰しました。同僚達は、治療期間中の仕事を引き継いでくれたり、食事を用意してくれたり、励ましの言葉をかけるようになりました。もう心ない言葉をかける上司もいません。

「私たちも何かできることがあったら言ってね。いつでも応援するよ」
絵美は同僚たちの言葉に涙し、その後も不妊治療に取り組む日々を過ごしました。
治療には苦しい思いもありましたが、同僚たちの支えがあったおかげで、最終的には健康な赤ちゃんを出産することができました。
絵美は、女性が仕事と不妊治療を両立することが難しい現状について、「女性が働きやすい環境が整備されることが大切だと思う」と語っています。
同僚たちからの支えがあったことで、彼女は困難な治療期間を乗り越えることができたと述べています。
Ⅱ.不妊治療とは
なぜ絵美は、休職に追い込まれなければならなかったのでしょうか。
それには不妊治療を受けることの大変さにあります。不妊治療を受ける人の5人に1人が退職してしまうほどです。
不妊治療とは、子どもを望む夫婦やカップルが、自然妊娠が難しい場合に、医療技術を利用して妊娠・出産を目指す治療のことです。不妊の原因は様々で、男性・女性双方に関連することがあります。不妊治療には、以下のような方法があります。
1.薬物療法
・排卵誘発剤:排卵を助ける薬で、卵子を成長させます。副作用として、頭痛や吐き気があることがあります。
・ホルモン療法:ホルモンのバランスを整える薬で、排卵を促進します。副作用として、イライラや体重変化が起こることがあります。
2.人工授精
・夫婦で作る赤ちゃんのために、医師がカテーテルという管を使用し、母体の中に精子を入れる方法です。痛みや不快感があることがありますが、痛みは比較的少ないと言われています。通院頻度は、排卵サイクルに合わせて数回程度です。ホルモン検査や超音波検査で排卵を予測し、タイミングを見計らって行われます。
3.体外受精(IVF)
・医師が卵と精子を体外で受精させて、妊娠しやすい時期に受精卵を母体に入れる方法です。体外受精は、卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を子宮に戻す方法です。通院頻度は、卵胞の成長をモニタリングするために数回から数週間にわたって行われることが一般的です。卵子採取と受精卵移植のための追加の通院が必要になります。また、ホルモン補充療法が行われる場合も、通院が増えることがあります。
4.顕微授精(ICSI)
・卵に精子を直接注入して、赤ちゃんを作る方法です。この治療は、通常、体外受精と同じく卵子採取や受精卵移植のための通院が必要です。また、卵胞の成長を監視するための通院も同様に必要となります。
5.顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE)
・男性に対する治療法です。精巣内から直接精子を採取する方法で、精液中に精子がいない無精子症の場合に行われます。
これらの治療方法や病院により、通院頻度に違いがあることから、患者の状況や治療プロセスに応じて、通院スケジュールが異なります。医師と相談し、最適な治療計画を立てることが重要です。
Ⅲ.治療に伴う苦痛
絵美は、午前中以下のような治療や検査を受けた後に、職場に戻り仕事をしていました。辛そうにしながら仕事をしている様子を見ていた上司から「怠け癖がつくからあまり休まない方がいい」とさえ言われてしまいました。
しかし、以下のような苦しみを感じながらも一生懸命働いていました。そして、ついに心が折れて休職へと追い込まれてしまいました。
1.薬物療法やホルモン療法による副作用
・頭痛、吐き気、乳房の張り、不正出血など。
2.人工授精や体外受精に伴う手術や検査
・痛みや不快感、感染リスクなど。
3.精神的負担
・治療が長期化することによるストレスや焦り。
・妊娠への期待と失敗による落胆や自己嫌悪感。
・社会的なプレッシャーや周囲からの理解が得られないことによる孤立感。
4.経済的な負担と助成金
不妊治療にかかる費用は、令和4年4月より保険適応となりました。しかし、治療が長期かしたり、交通費や休職・退職など、直接治療にかかる費用以外で経済的なストレスが生じる場合があります。さらに、保険が適用されない治療法を選択する場合は、負担が大きくなります。
また、各自治体で助成金事業を実施している場合があります。以下はいくつかの例を掲載します。お住まいの地域で助成金事業がないか確認しましょう。
不妊治療の保険適応について-厚生労働省-
https://www.mhlw.go.jp/content/leaflet202212ver2.pdf
特定不妊治療費助成・妊活相談
千葉県
http://www.town.sakae.chiba.jp/page/page004517.html
不妊検査等助成事業を開始します!
東京都
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/07/12/10.html
横浜市特定不妊治療費助成
神奈川県横浜市
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/oyakokenko/teate/josei/funin.html
不妊治療費助成事業
埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0704/boshi/funinchiryo.html
5.治療に伴う時間的制約
・不妊治療は、病院通いが頻繁になり、仕事や家庭生活への影響が大きくなることがあります。そのため、治療スケジュールに合わせて生活を調整する必要があります。
・体外受精や顕微授精では、卵の採取のためにタイミングに合わせた日程調整が必要です。卵の成熟具合に応じて、ホルモン注射を行い、排卵を誘発します。その後、適切なタイミングで卵を採取する必要があります。このタイミングは患者の体調やホルモンバランスによって変わるため、日程調整が重要です。
6.夫婦関係への影響
・不妊治療は、夫婦間のストレスや緊張を引き起こすことがあります。治療の失敗や、原因が特定できない場合、お互いに非難や不満を抱くことがあります。
・性生活が治療の一環として計画的になるため、自然な愛情表現や楽しみが失われることがあります。これらの問題は、夫婦関係に影響を与えることがあります。
Ⅳ.周囲のサポート
絵美は、理解ある同僚に助けられ、復職後にも治療を継続し、子供を無事に授かることができました。私たちにできることは何なのか、考えてみましょう。
1.積極的なリスニング
・本人が話したいと感じた場合、相手の話をよく聞き、共感し、理解しようとする姿勢を見せることが大切です。
2.プライバシーの尊重
・不妊治療に関する情報は非常にデリケートです。彼らが自分から話題を持ち出すまで、無闇に質問したり触れたりしないようにしましょう。
3.偏見やジャッジメントを避ける
・本人が不妊治療を受ける理由や選択を評価したり、偏見を持ったりしないように心がけてください。
4.心からのエンパシー(エンパシーとは他人の感情や状況に共感し、理解しようとする心の働き)
・本人の気持ちや立場に立って、共感し、サポートしてあげることが重要です。
5.応援と支援
・できる範囲でのサポートや助けを申し出ることで、彼らの心身の負担を軽減することができます。
Ⅴ.セルフケア
治療と仕事を継続するにあたり、絵美は自分自身に対してもいたわる必要がありました。
1.サポートの受け入れ
・家族や友人、医師、カウンセラーなど、信頼できる人に話し、助言や励ましを受け入れることが重要です。
2.ストレスマネジメント
・リラクセーション法、瞑想、運動、趣味などを通じてストレスを解消し、精神的なバランスを保つことが大切
3.情報収集と意思決定
・不妊治療に関する情報を収集し、適切な治療法を選択することで、不安を軽減できます。また、治療計画について医師と十分に話し合い、自分たちの意思を尊重することが重要です。
4.日常生活上の心がけ